第36回公開市民大学:大川三雄

第36回公開市民大学:大川三雄

千葉県の近代和風建築
理工学部建築学科助教授 大川三雄

千葉県における近代和風建築の現状と特徴についてお話する前提として、ここでは近代和風建築という言葉の意味や研究の意義について触れておきたいと思います。"近代和風建築"という言葉が建築界において認識されるようになったのはここ20年のことです。昭和30年代、高度経済成長の時期に、都市部を中心に明治大正期の建物の解体が加速的に進められました。丸の内にあった三菱1号館や帝国ホテルといった名作が次々と姿を消してしまいました。こうした中、建築界において、明治以降の建築を対象とする日本の近代建築への関心が高まり、多くの研究者たちが結集して昭和55年に『日本近代建築総覧』という、いわば近代建築の戸籍台帳ともいうべきものが誕生いたしました。しかし、この台帳は近代建築の中でも"洋風"と呼ばれる建物のみを対象としたもので、いわゆる"和風"を含むものではありませんでした。膨大な量が予想され、選択の基準もアイマイであった "和風"は対象外とされたわけです。

しかし、この全国調査の結果、改めて、日本における建築近代化の過程が、西洋建築の導入・消化の課程のみでは語ることのできないという認識が徐々に高まってきました。著者を含む研究者有志が「近代和風建築調査研究会」を発足させたのは昭和57年のことでした。近代和風という言葉そのものが、当初はアイマイであったため、様々なご批判もいただきましたが、近年は学会・官界においても認識されるようになりました。

近代和風建築とは何でしょうか。本来、"和風"とは"洋風"の対概念といえる存在です。日本における伝統的建築が"洋風建築"と対峙した時に、"和風建築"という表現となったものです。それまでの建築と様式や技術が大きく異なる西洋の建築が日本に入ってきた時に相対化され、"和風建築"としてひとつのまとまった建築群が認識されることになったわけです。

同様の経緯は、鎌倉時代の建築にも見られます。鎌倉期にそれまでと異なる体系をもつ建築が宋(中国)から入ってくると、それまで一般的であった建築に対して、「日本様」(あるいは和様)といった名称が用いられ、新しい建築には「天竺様」「唐様」といった用語が使われるようになりました。こうした所に、常に外国からの刺激を受けながら、独自の文化を築き上げてきた日本の独自性があるのかも知れません。

幕末・明治以降に建てられた和風建築を総称して近代和風建築と呼んでいます。その中には、洋風との折衷から生まれた和洋折衷の外観をもつ建築もあります。一方で、一見しただけでは近世の建物との差異が見られないものも含まれています。しかも"和風"という概念そのものが、時代とともに常に変化しているのです。近代になって認識されるようになった"和風建築"が、近代社会の中でいかなる変容を遂げ、あるいは展開していったのか、その過程を明かにするのが近代和風建築研究の目的です。つまり、近代化=洋風化の傾向の強い建築史が主流となってきたことへのアンチテーゼとして位置づけています。

近代和風建築研究とは、近代化という現象を伝統の側から問い直すことに意義があり、強大な西洋の建築文明を前にして、既存の建築文化がどのように変容し、どうやってアイデンティティを保持しようとしたのかに注目して、日本の近代を捉えなおす作業に他ならないと考えています。

現在、文部科学省の指導の下、全国の都道府県において近代和風建築総合調査が進められています。私たちが先陣をきった研究も、いよいよ本格的な調査研究の段階に入ったことになります。その一環としてこの2年間にわたり、5つの大学が協力しあって、千葉県の近代和風建築の調査に関わってきました。今回の公開市民講座においては、私の担当した地域を中心に、千葉県における近代和風建築の現状を、産業や交通、文化や厚生の観点から整理し、その特徴をスライドを多用したヴィジュアルな構成でご紹介したいと考えています。

プロフィール

〈略歴〉
昭和44年4月 日本大学理工学部建築学科入学
昭和48年3月 同科卒業
昭和48年4月 日本大学大学院理工学研究科博士課程前期建築学専攻入学
昭和50年3月 同専攻修了
〈資格〉
平成12年3月 博士(工学)の学位取得(日本大学)
〈職歴〉
昭和50年4月〜 日本大学理工学部建築学科助手
平成12年4月〜 日本大学理工学部専任講師
平成16年4月〜現在 日本大学理工学部助教授
平成元年4月〜平成7年3月 山脇学園女子短期大学部非常勤講師、「住居学」担当
平成2年4月〜現在 NHK文化センター講師「名建築探訪」担当
平成元年4月〜現在 東京デザイン専門学校(平成7年まで)
平成14年4月〜現在 東急BE非常勤講師「ヨーロッパ建築史」「日本近代建築史」等を担当
〈学外活動〉
昭和55年4月〜平成7年3月 日本建築学会文献抄録委員会委員
昭和63年4月〜平成6年3月 日本建築学会関東支部専門研究委員会委員及び幹事
昭和59年4月〜昭和62年3月 日本建築学会建築博物館検討委員会委員
昭和62年4月〜昭和63年3月 坂本龍馬記念館構想設計競技運営委員会委員
平成2年4月〜平成10年3月 日本建築学会教育委員会大学小委員会委員
平成10年4月〜現在 日本建築学会DOCOMOMO対応ワーキング委員
平成12年4月〜現在 日本建築学会歴史意匠委員会委員
平成12年4月〜現在 日本建築学会歴史的建築総目録作成ワーキング委員
平成14年4月〜平成15年3月 渋沢資料館青淵文庫保存修理工事検討委員会委員
平成14年4月〜現在 千葉県近代和風建築総合調査委員会委員・監事
〈主要著作〉
『図説 近代建築の系譜』共著1997年6月 彰国社
『近代和風を探る 上下』共著 2001年6月 エクスナレッジ
『図説 近代日本住宅史』共著 2001年2月 鹿島出版会
『建築モダニズム 近代生活の夢とかたち』共著 平成13年2月 エクスナレッジ
『建築家・吉田鉄郎の【日本の住宅】』共訳書 2002年6月 鹿島出版会

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