2020年 理工学部 シラバス - 教養教育・外国語・保健体育・共通基礎
設置情報
科目名 | クリティカル・シンキング | ||
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設置学科 | 一般教育 | 学年 | 1年 |
担当者 | 島村 修平 | 履修期 | 前期 |
単位 | 1 | 曜日時限 | 水曜4 |
校舎 | 船橋 | 時間割CD | S34A |
クラス |
概要
学修到達目標 | 「クリティカル・シンキング」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 「批判的思考」などと訳されることもありますが、批判すること自体は必ずしも本来の目的ではありません。クリティカル・シンキングとは、与えられた情報や人の意見をただ鵜呑みにするのではなく、自問自答や周囲の人との話し合いを通じて、本当に納得できる考えを見つける(あるいは、それに近づく)ための技術です。 この授業では、哲学や論理学の分野で反省的に積み重ねられてきた探究の手法を下敷きとして、こうしたクリティカル・シンキングの勘所を学ぶことを目指します。具体的には、接続詞を使いこなす技術、事実と意見を区別する技術、論証を評価する技術、論証の隠れた前提を掘り出す技術、論証を明確な言葉で表現する技術などが含まれます。この講義のもう一つの目標は、そうして学んだ思考の技術を自分にとって身近な問題に当てはめることができるようになることです。このために、身の回りの問題や科学技術に関連するトピックを取り上げ、先の技術を実践的に活用するトレーニングを行います。 |
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授業形態及び 授業方法 |
この授業は、①講義と演習中心の回、②ディスカッション(サイレントダイアローグ、もしくはグループディスカッション)の回、及び③成果をアウトプットする回(小レポートの作成)の三種類の回から成ります。①では、学習する内容の要点を記載したハンドアウトを配布し、それに基づき講義を行い、また関連する演習問題を解いてもらいます。②では、個人、小グループ、クラス全体と徐々に規模を大きくしながら、意見交換やディスカッションを行ってもらいます。③は、①や②で学んだ成果を自分なりに噛み砕き、目に見える形でアウトプットするための回です。これら三種類の回からなる入力→咀嚼→出力のサイクルを回すことで、批判的思考の要点を、頭だけでなく、手を使って習得します。 |
履修条件 | 履修条件はとくにありません。 |
授業計画
第1回 | イントロダクション: 「クリティカル・シンキング」って何? クリティカル・シンキングの定義、歴史、目的を学ぶ。また導入として、日常で出会う場面や文章に対して批判的に接する体験をしてみる。 【事前学習(30分)】シラバスをよく読んでおく。 【事後学習(30分)】配布したハンドアウトを読み、要点を復習しておく。 |
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第2回 | 接続詞を使いこなそう クリティカル・シンキングの土台となる、理由・解説・例示・付加・転換の五種類の接続詞について、その具体例と働きを学ぶ。また、演習問題を通じて、接続詞を適切に使用する感覚を養う。 【事前学習(30分)】日常に潜む「クリシン」の例を探してみる。 【事後学習(30分)】ハンドアウトを使って、要点を復習しておく。また、図書館に行って関連文献に当たり、理解をさらに深める。 |
第3回 | 「議論」ってどんな文章? クリティカル・シンキングの対象となるタイプの文章を「議論」と呼ぶ。「議論」はある決まった構造を持たなければならない。その構造を前回学んだ五種類の接続詞を用いて特徴づける。また、生の議論サンプルの構造を分析する訓練を行う。 【事前学習(30分)】第2回のハンドアウトを用いて、その回で学んだ内容を実際に使える状態にしておく。 【事後学習(30分)】ハンドアウトを使って、要点を復習しておく。また、図書館に行って関連文献に当たり、理解をさらに深める。 |
第4回 | サイレント・ダイアローグ:身の回りの素朴な疑問を掘り起こしてみよう 前回学んだ議論の構造を意識しつつ、自身の身近で関心の持てるトピックについて、実際にクリティカル・シンキングを行ってみる。この際、サイレント・ダイアローグ(SD、紙上対話)と呼ばれる手法を用いる。 【事前学習(30分)】SDの題材として、自分にとっての素朴な疑問を見つけておく。 【事後学習(30分)】配布物を利用して、SDの成果をまとめておく。また、図書館に行って関連文献に当たり、理解をさらに深める |
第5回 | 事実と推測・意見を区別しよう 議論の中で事実と推測・意見を区別する必要性、また、後二者を明示するための表現について学ぶ。さらに、前回行ったSDに対して、事実vs.推測・意見の書き分けがどの程度できていたかを振り返る。 【事前学習(30分)】身近な文章に当たり、そこで事実と意見がどう区別されているかを調べておく。 【事後学習(30分)】ハンドアウトを使って、要点を復習しておく。また、図書館に行って関連文献に当たり、理解をさらに深める。 |
第6回 | よい批判って何だろう(1):議論の前提と主題を区別する・暗黙の前提を掘り起こす 批判が的外れになることを避けるために、議論の前提と主題を区別する必要性について学ぶ。また、誤解や無理解、意図的なごまかしを回避する手段として、暗黙の前提を掘り起こす技術について学ぶ。 【事前学習(30分)】他の人の行う論証を評価する際、自分がどこに気を付けているかを考えておく。 【事後学習(30分)】ハンドアウトを使って、要点を復習しておく。また、図書館に行って関連文献に当たり、理解をさらに深める。 |
第7回 | よい批判って何だろう(2):論証図を使ってみる 議論の心臓部である「論証」(主張+「なぜなら」)を評価する方法を学ぶ。また、論証の構造を可視化する道具立てである「論証図」の使い方を身につける。 【事前学習(30分)】「よい批判」とはどんな批判だろうかということについて、自分なりに考えておく。 【事後学習(30分)】ハンドアウトを使って、要点を復習しておく。また、図書館に行って関連文献に当たり、理解をさらに深める。 |
第8回 | サイレント・ダイアローグ:哲学の問題に挑戦! II部で学んだより高度なクリティカル・シンキングの技術を意識しつつ、簡単には答えの出ない哲学的問いについて、SDを通じて他の受講者と力を合わせて議論する。 【事前学習(30分)】自分にとって気になるけれども、簡単には答えが出なさそうな問いを見つけておく。また、それまでの講義内容を復習し、使える状態にしておく。 【事後学習(30分)】配布物を利用して、SDの成果をまとめておく。また、図書館に行って関連文献に当たり、理解をさらに深める。 |
第9回 | 演繹と推測を区別する 論証を構成する導出(「なぜなら」の関係)は、強いもの(演繹)と弱いもの(推測)に区別される。両社の区別する方法、及び否定と条件文に関する重要な演繹的性質を学ぶ。 【事前学習(30分)】日常の中で自分が行っている推論・推測の例を三つ見つけておく。 【事後学習(30分)】ハンドアウトを使って、要点を復習しておく。また、図書館に行って関連文献に当たり、理解をさらに深める。 |
第10回 | グループ・ディスカッション:身近な問いを掘り起こしてみる 前半は、人の話を聞いて質問するための技術を学ぶ。後半は、各自で自分の気になる問いを掘り起こした上で、小グループに分かれ、問いを共有し、気になった問いについてグループで力を合わせて議論する。 【事前学習(30分)】身の回りで気になる問いを探しておく。 【事後学習(30分)】次回の哲学対話に備え、ハンドアウトで要点を復習しておく。また、図書館に行って関連文献に当たり、理解をさらに深める。 |
第11回 | 「哲学対話」に挑戦してみよう いつもとは違う教室で、円になって座り、クラス全体で哲学対話をする。 【事前学習(30分)】哲学対話で取り扱ってみたい問いの候補を考えておく。 【事後学習(30分)】哲学対話を振り返り、印象に残った考え、なぜそれが印象に残ったのか、自分自身はどう考えるか、といった点を整理する。 |
第12回 | ルーブリックって何だろう――相互評価を通じて議論の質を高めるために 本講義の集大成である小レポート作成の準備として、小レポートの評価基準を定めたルーブリックについて学ぶ。まず、ルーブリックの各評価項目の説明を通じて、I部とII部を通じて学んできたクリティカル・シンキングの要点を概観する。さらに、ルーブリックに従い前回のSDを自己評価することで、ルーブリックに基づく相互評価の予行演習を行う。 【事前学習(30分)】「ルーブリック」についてインターネットで調べてみる。 【事後学習(30分)】ハンドアウトを使って、要点を復習しておく。また、図書館に行って関連文献に当たり、理解をさらに深める。 |
第13回 | ディープ・サイレント・ダイアローグ①:素材づくり 小レポート作成のたたき台となる素材を生み出すために、ルーブリックの評価項目を意識しつつ、三度目のSDを行う。 【事前学習(30分)】DSDに備え、自分の問いを見つけ、それに対する考えをまとめておく。 【事後学習(30分)】DSDで生まれた素材を元に小レポートの草稿を作成する。 |
第14回 | ディープ・サイレント・ダイアローグ②:ルーブリックに基づく相互評価と提案 各自が作成してきた小レポートの草稿に対して、ルーブリックに基づき相互評価を行う。さらに、草稿の問題点や草稿を改善するための提案をフィードバックする。 【事前学習(30分)】小レポート用ルーブリックを復習し、使える状態にしておく。 【事後学習(30分)】自分のSDに対する相互評価の結果を踏まえ、改善点について考える。 |
第15回 | 総まとめと小レポートの推敲 本講義の最終成果物である小レポートの作成を行う。小レポートが満たすべき基本条件を確認した後、各自で作成した小レポートの草稿を、前回得たフィードバックを参考しつつ推敲し、提出する。 【事前学習(60分)】小レポートの推敲内容を考えておく。 |
その他
教科書 | |
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参考書 |
楠見孝・道田泰司 『批判的思考 21世紀を生き抜くリテラシーの基盤』 新曜社 2015年
アン・トムソン 『論理のスキルアップ 実践的クリティカル・リーズニング入門』 春秋社 2008年
伊勢田哲治(他) 『科学技術をよく考える クリティカルシンキング練習帳』 名古屋大学出版会 2013年
野矢茂樹 『新版 論理トレーニング』 産業図書 2006年
野矢茂樹 『論理トレーニング101題』 産業図書 2001年
NHK『ロンリのちから』製作班 『ロンリのちから』 三笠書房 2015年
シャロン・ケイ、ポール・トムソン 『中学生からの対話する哲学教室』 玉川大学出版部 2012年
野矢茂樹 『大人のための国語ゼミ』 山川出版社 2017年
NHK『ロンリのちから』製作班(著)、野矢茂樹(監修) 『「ロンリ」の授業』 三笠書房 2019年
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成績評価の方法 及び基準 |
平常点(講義・演習回は小テストの回答で採点):50% 小レポート:50% |
質問への対応 | 授業中や授業後に質問しそびれた人は、下記のオフィスアワーに質問を受け付けます。 |
研究室又は 連絡先 |
駿河台キャンパス・タワースコラ・S608研究室 船橋キャンパス・5号館・532研究室 shimamura.shuuhei@nihon-u.ac.jp |
オフィスアワー |
月曜 駿河台 12:20 ~ 13:00
火曜 船橋 12:30 ~ 13:10
金曜 駿河台 12:20 ~ 13:00
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学生への メッセージ |
批判的思考はとても汎用性の高い技能です。一人の市民として、あるいは専門知を身に付けた技術者・科学者として、批判的思考の力が求められる場面は様々に考えられます。それは、誰かの話をきちんと理解したいとき、自分自身や周囲の人や社会にとって大事な事柄について納得行くまで考えたいときなどです。批判的思考の訓練は一人でももちろんできますが、仲間と力を合わせて訓練することで、その効果を一層実感できるでしょう。この授業を通じて、普段とは少し違う、新しい頭の使い方をぜひ体験してみてください。 |