学習理論と解析関数論

担当講師:青柳 美輝

情報科学の分野では,計測して得られた多量のデータから,そのデータを発している情報源の確率分布(真の分布)を推測することを学習といい,この学習は手書き文字認識,画像認識,音声認識,遺伝子解析などに利用されます。

例えば,手書き文字認識の場合,手書き文字は,ノイズの含まれたデータなので,確率的に考える必要があります。いろいろなデータ(手書き文字の画像)を与えて,機械に学習させます。
機械による学習の仕組みとしては,色々なものが考えられてきました。現在,効率的なものとして動物の生体神経回路網をヒントにして作られた「ニューラルネットワーク」などが利用されています。
「学習理論」とは,このような仕組みを利用した場合の学習の挙動を定めている共通または固有の法則を解明,体系化することです。その上で情報科学的なシステム設計法を与えることを目的としています。

近年,この学習理論研究のためには,解析関数論の手法が必要であることが分かってきました。学習理論は,解析関数論と結びついて理論研究が盛んになってきた新しい分野です。

流れの数値シミュレーション

担当講師:小紫 誠子

流体というのは,ごく簡単に言えば,水や空気のように流れるもののことです。

そしてその流体の種々のふるまいを,流体現象と呼んでいます。空気などのように,流体は私たちの身近に存在し,普段の生活のあちこちで流体現象が起こっています。飛行機が空を飛べるのも,風車が風を受けて回るのも,流体現象を上手に利用した例であり,鳴門の渦潮や台風などの気象現象も,流体現象の一つです。
また一方で,自動車などにとっては,流体から受ける抵抗や揚力が大きな問題となります。このような多種多様の流体現象も,その多くは,基本的に同じ方程式で記述することができます。

ここでは,その方程式をコンピュータを利用して解き,結果をコンピュータグラフィックスで表現した例をいくつかお見せします。
数理科学のすばらしさと,「流れ」の美しさを,どうぞ体験して下さい。

深海の熱水噴出流
深海の熱水噴出流

微分方程式-方程式の形と解の形-

担当講師:利根川 聡

数学の世界には,いろいろな方程式があります。
一次方程式,二次方程式を学校で習ったでしょう。これらの方程式は特に代数方程式と呼ばれています。
それに対し,私が研究している方程式は微分方程式と呼ばれるものです。微分方程式は,物理などいわゆる理系の分野にたくさん顔を出しますが,現代の社会では経済などでも重要な役割を果たしています。大雑把に言えば,時間の経過とともに変化するもの―運動する物体の位置や速度,株価,など―を数量的に扱う場面で微分方程式が活躍します。

ところで,一次方程式はいつでも解が求まるのに対して,二次方程式は実数の範囲だけで考えると解が存在しないことがあります。

微分方程式の世界でも,方程式によって解があったりなかったりというようなことがあります。ある複数の方程式について,見かけは似ているのに解の性質は全く異なる,というようなこともあります。非線形性という性質を持った方程式の世界では,そういったことが特によく起こります。
似ているのに全く違う,その辺りに面白さと難しさがあります。

確率過程の例と応用

担当講師:西川 貴雄

高校までに,ランダムな現象を取り扱うための「確率」というものを学習したかと思います。「確率」が考察された起源は17世紀のフェルマーとパスカルの書簡であると言われており,そこから確率に対する研究が始まり,数多くの研究者が研究に携わってきました。
20世紀になって,試行のもたらす結果(根源事象)の空間とその確率を公理として与えてその上で考える枠組みが作られました。さらに,当時できたばかりの「測度」という概念が非常に威力を発揮し,飛躍的な発展を遂げることになりました。また,数学の一分野としてだけにとどまらず,自然科学・社会科学において非常に重要な位置を占めるまでに成長しています。
この確率論において特に研究されたものの1つが,時間に伴いランダムに動くものを定式化した「確率過程」です。
この講義では,「ランダムウォーク」等の確率過程の例をお見せするのと同時に,その応用についてお話ししたいと思います。

図形を分類してみよう

担当講師:橋口 徳一

数学の研究の目指すものは永遠の「真理」であると言うことができます。
「真理」の探求のし方にはいろいろなパターンがあります。対象(例えば数や図形)のもつ性質を明らかにする,さらに進んで対象を分類する,方程式等の解法を見出す,あるいは,現象を記述するモデルを構成する,など様々です。
私の専門である幾何学では,目標は「図形を分類することである」と言うことができます。分類するというのは,2つの図形が同じであるための基準を定めて,その基準にしたがって図形を仲間分けすることです。

皆さんが良く知っている例をあげると,合同である(または,相似である)ことを基準として三角形を分類することができます。現代の幾何学は,対象としている図形に応じて基準を取り替えながら,多様な図形を分類しようとしています。

この授業では,次元や連結性など位相幾何学で用いられる言葉を用意して,いくつかの簡単な図形を分類します。

アルゴリズムと計算の難しさ

担当講師:平石 秀史

この数十年でコンピュータの性能が飛躍的に向上したおかげで,多種多様な問題をコンピュータ上で扱えるようになりました。みなさんが普段使っているウェブサービスでも,後ろで様々な計算が行われています。

例えば,地図アプリで目的地までの道順を調べるとすぐに最適な経路を教えてくれます。

他にも,検索サービスで調べたいことを入力すると,上から順に関連がありそうなウェブサイトを表示してくれます。こういったサービスでは,地図のデータやウェブページのデータといった巨大なデータの中から,私たちが知りたい情報を一瞬で導き出して教えてくれます。

このようにコンピュータで答えを高速に計算できる問題がある一方で,どのような計算方法(アルゴリズム)を考えても,正しい答えを求めるのに膨大な時間がかかってしまう(と信じられている)問題があります。
例えば,素因数分解といった,数学でおなじみの問題は,今のコンピュータでは簡単に答えを求めることができない代表的な問題の一つです。こういった計算が難しい問題は,その計算の難しさを利用して,解読が困難な暗号の設計などに応用されています。

この講義では,アルゴリズム理論や計算量理論とった分野で,様々な問題の計算の難しさがどのように解明されてきたかについて話します。

微分方程式の理論と応用

担当講師:水野 将司

微分方程式とは,導関数を含む未知関数を含む方程式のことです.導関数は,その関数の変化の割合と関係があるので,微分方程式は変化の割合に関する方程式ということができます.
従って,現時点での関数の変化から,未来の関数の状態を決めるルールともいえます.

私の研究室では,微分方程式の性質を調べること(理論)と微分方程式をどのように使うか(応用)の双方を研究しています.
この研究のために,微分積分を使うことはもちろんのこと,ベクトルや複素数,数列を使うこともあります.さらに,コンピュータを使って,理論を構築するための数値計算を行うこともあります.また,方程式をどのように使うかを調べるために物理や化学,工学の知識を勉強することもあります.
私自身は理論寄りの研究を主体に行っていますが,理論と応用はお互いに影響を与えあって,研究が進むものと考えています.

有限・離散な数学― グラフ理論

担当講師:善本 潔

グラフ理論におけるグラフとは,普段使われているグラフと異なり,幾つかの点とその間を結んだ線で出来ている図形のことをさします。例えば鉄道の路線図や道路図などが,その具体的な例です。
グラフ理論は,そういった図形の組合せ的性質を研究する数学の一分野です。


歴史的には,オイラーの一筆書きの問題,いわゆる「ケーニッヒベルクの橋問題」と呼ばれるオイラーの定理が最も古い定理の一つでしょう。
しかし現代のように大きく発展したのは20世紀からで,何千年の歴史を持つ数学の中では,新しい分野の一つといえるでしょう。しかしそれだけに,まだまだ未解決な問題が多く残されていて,活気に満ちたジャンルといえます。よく知られた「四色問題」はグラフ理論の問題で,解決されたのはわずか30年前です。しかもその証明はコンピュータを使った煩雑なもので,現在でもシンプルな証明を与えようという試みが行われています。

数理最適化入門 −線形計画問題−

担当講師:伊藤 勝

数理最適化は,「最も良い手段を求める」ための数学の理論です。より具体的には,与えられた条件のもとで,ある関数の最大値や最小値を求める問題を最適化問題といい,この問題を解くことが数理最適化の目的です。
高校の数学では,最大値や最小値を求める問題が様々ありますが,それらは最適化問題の一種と言えるでしょう。より身近な例としては,路線検索サービスを使って,行き先までの交通費や移動時間が最小のルートを探すことは,最適化問題を解いていると見なすことができます。
このように数理最適化は様々な場面で登場することがわかります。

その中でも線形計画問題は,高校の数学にも登場する基本的な最適化問題のひとつであり,より一般的な視点から眺めると美しい数学の性質が見えてきます。

この講座では,数理最適化の入門や線形計画問題に関わる数学の理論について紹介していきます。

不変量

担当講師:笠川 良司

輪ゴムのようにゴムでできた物体を考えます。
ゴムで作られていますから,少し力を加えれば形は少し変わります。切れない程度に力を加えていくと,かなり形は変わります。しかし,形は変わっても同じ物と普通は考えます。
位相幾何学では,図形や物体の形が少しぐらい変わっても,更にはその積み重ねで見た目がだいぶ変わったとしても同じ図形,物体と考える幾何学です。少し言い方をかえると2つの図形が同じであるとは片方を少しずつ変化させてもう一方の図形になる場合をいいます。

さて,2つの図形があるとします。これらの図形は同じかを考えます。
同じであれば少しずつ変形して同じ形にすれば良いのですが,(といっても簡単ではありませんが)異なる場合どうすれば異なることを示せるのでしょうか。
いくら変形しても同じ形にならないからといって,違うとは言えません。もしかしたら別のやり方で同じ形になるかもしれません。すべての変形を試せば良いのですが,変形のやり方は無限に多くあるので,いくらやっても終わりません。
ここで登場するのが不変量です。例えば,いま考えている図形1つ1つには数が対応しているとします。この数が図形の少しずつの変形では変わらないとします。すると少しずつの変形で移りあう図形は同じ数が対応します。ということは,この数が異なる図形は同じ図形ではないということになります。

身近なところでは,ボールと浮き輪は上の意味で違うものです(見た目にも明らかに違います)が,これらも不変量で区別できます。それは何でしょうか。