身近な触媒技術

担当講師:梅垣 哲士

触媒という言葉を聞いて皆さんはどのようなものを思い浮かべるでしょうか?

触媒は店頭に商品として売っているものでもなく,CMで商品として紹介されるものでもありませんので,言葉は知っていても実際にどんなものであるか知っている人は少ないかもしれません。

しかし,触媒は私たちのごく身近に存在しており,冷蔵庫や電子レンジなどの電化製品や自動車などの部材として内蔵されていたり,衣類などの石油化学製品を製造するのに不可欠です。

このように触媒には多種多様な用途があり,それぞれの用途に応じて抗菌,有害ガスの除去,目的の物質を選択的に生成する機能など,様々な機能を持つことが求められます。

本講義では,身近にある触媒材料技術について紹介し,特に私たちの研究室で研究を行なっているエネルギー・環境関連の触媒を中心に概説します。

確率過程の例と応用

担当講師:西川 貴雄

高校までに,ランダムな現象を取り扱うための「確率」というものを学習したかと思います。「確率」が考察された起源は17世紀のフェルマーとパスカルの書簡であると言われており,そこから確率に対する研究が始まり,数多くの研究者が研究に携わってきました。
20世紀になって,試行のもたらす結果(根源事象)の空間とその確率を公理として与えてその上で考える枠組みが作られました。さらに,当時できたばかりの「測度」という概念が非常に威力を発揮し,飛躍的な発展を遂げることになりました。また,数学の一分野としてだけにとどまらず,自然科学・社会科学において非常に重要な位置を占めるまでに成長しています。
この確率論において特に研究されたものの1つが,時間に伴いランダムに動くものを定式化した「確率過程」です。
この講義では,「ランダムウォーク」等の確率過程の例をお見せするのと同時に,その応用についてお話ししたいと思います。

図形を分類してみよう

担当講師:橋口 徳一

数学の研究の目指すものは永遠の「真理」であると言うことができます。
「真理」の探求のし方にはいろいろなパターンがあります。対象(例えば数や図形)のもつ性質を明らかにする,さらに進んで対象を分類する,方程式等の解法を見出す,あるいは,現象を記述するモデルを構成する,など様々です。
私の専門である幾何学では,目標は「図形を分類することである」と言うことができます。分類するというのは,2つの図形が同じであるための基準を定めて,その基準にしたがって図形を仲間分けすることです。

皆さんが良く知っている例をあげると,合同である(または,相似である)ことを基準として三角形を分類することができます。現代の幾何学は,対象としている図形に応じて基準を取り替えながら,多様な図形を分類しようとしています。

この授業では,次元や連結性など位相幾何学で用いられる言葉を用意して,いくつかの簡単な図形を分類します。

アルゴリズムと計算の難しさ

担当講師:平石 秀史

この数十年でコンピュータの性能が飛躍的に向上したおかげで,多種多様な問題をコンピュータ上で扱えるようになりました。みなさんが普段使っているウェブサービスでも,後ろで様々な計算が行われています。

例えば,地図アプリで目的地までの道順を調べるとすぐに最適な経路を教えてくれます。

他にも,検索サービスで調べたいことを入力すると,上から順に関連がありそうなウェブサイトを表示してくれます。こういったサービスでは,地図のデータやウェブページのデータといった巨大なデータの中から,私たちが知りたい情報を一瞬で導き出して教えてくれます。

このようにコンピュータで答えを高速に計算できる問題がある一方で,どのような計算方法(アルゴリズム)を考えても,正しい答えを求めるのに膨大な時間がかかってしまう(と信じられている)問題があります。
例えば,素因数分解といった,数学でおなじみの問題は,今のコンピュータでは簡単に答えを求めることができない代表的な問題の一つです。こういった計算が難しい問題は,その計算の難しさを利用して,解読が困難な暗号の設計などに応用されています。

この講義では,アルゴリズム理論や計算量理論とった分野で,様々な問題の計算の難しさがどのように解明されてきたかについて話します。

分子デバイスをめざす化学

担当講師:大月 穣

化学は,物質がどのような構造をし,それがどのように変化するかを,原子・分子のレベルから明らかしようという科学です.

化学者は,そのような研究の蓄積を学び,さらに新しい反応を発見したりしながら,世界中どこを探しても存在しない新しい分子を設計して,作り出すことができます.最近の研究では,さらに分子を望み通りに組み立てて,新しい物質を作り出すことができるようになってきました.分子を一つずつ作って組み立ててというのは,実は自然界では生物がいとも簡単そうに行なっていることではあります.

植物が,光エネルギーを化学エネルギーに高効率で変換する光合成を行えるのも,分子が精密に並べられた天然分子デバイスを持っているためです.

人間が分子をよりコントロールして組み立てることができれるようになれば,原子・分子レベルで働く究極のデバイスを作ることができるようになります.より優れた光合成を行う人工分子デバイスを組み立てることも可能になるかもしれません.

新しい分子,物質,分子デバイスを作ることを夢みて,日々行なっている研究を紹介します,

二酸化炭素による地球温暖化とカルシウム化合物によるその回収

担当講師:小嶋 芳行

地球温暖化の主因は二酸化炭素といわれています。
大気中の二酸化炭素濃度は産業革命までは280ppm程度でしたが,1900年代前半よりこの濃度は急激に高くなっています。最近では,380ppmを超えるようになってきました。

本講義では,なぜ二酸化炭素が地球温暖化の主因とされているのかを化学的に明らかにし,二酸化炭素排出量の現状について詳細に述べます。このまま,二酸化炭素濃度が増え続けたらどのようなことが起こると考えられるのかを説明します。

そして最後に,この二酸化炭素を炭酸カルシウムとして固定化するための方法を提案します。

酸化カルシウム系建築材料のリサイクル

担当講師:小嶋 芳行

われわれが生活している家あるいは職場のビルを見回してみると酸化カルシウム系建築材料であるセッコウボード,コンクリートで囲まれていることに気がつきます。
最近では,このビルあるいは家が老朽化や都市整備などにより解体され,これによって大量のコンクリート廃材,セッコウボード廃材が排出されています。この量はコンクリート廃材で年間5000万t程度,セッコウボード廃材では170 万t 程度と推定されています。コンクリート廃材の一部は埋め戻し材,骨材などとしてリサイクルされていますが,廃棄処理地の不足や遠方化などによる廃材の不法投棄は後を絶たず,環境汚染などを引き起こして社会問題となっています。
そこで,われわれは,ただたんに廃棄物を役に立たないものとしてあつかうのではなく,酸化カルシウム系建築材料を化学的に処理することにより新たな資源として活用することを目的とした研究を行っています。

たとえば,コンクリート廃材を地球温暖化の原因とされている二酸化炭素と海水を用いて化学処理することにより,コンクリートの原料である炭酸カルシウム,シリカゲルおよび砂などが得られることを明らかにしています。

身の回りの高分子

担当講師:清水 繁

高分子という概念は確立してから70年程度と比較的新しい分野です。しかしながら,現代の生活には欠かすことができない材料で身の回りにあふれています。

本講義では,高分子という概念がいかに成立したか歴史的背景,身近な高分子材料についての話から始め,高分子の性質や特徴について述べます。

また,そのような性質や特徴が高分子を構成する繰り返し単位の化学的性質だけでなく,集合体としての性質も大きく寄与していることを述べます。これらの性質を測定するための実験的手法についても述べます。

これまで知られている高分子材料の性質を概観し,さらに今後期待される新規高分子材料についても展望します。

ナノテクノロジーを化学する:エネルギー社会・医療技術への貢献に向けて

担当講師:須川 晃資

“ナノテクノロジー”とは,分子ほどの小さなサイズの物質を扱う技術の総称であり,このような非常に小さなサイズの物質をナノ材料と呼びます。通常,我々が目にするありふれた素材でも,ナノサイズまで小さくすることで,これまでにない新しい機能を発現することがあります。
そういった点で,ナノ材料に関する研究は私たち研究者にとって魅力的であり,また,我々人類の社会においても新しい技術革新の可能性を秘めているのです。

例えば,私たちが通常目にする“金”は名前の通り“金色”を呈しますが,金をナノメートルサイズの粒子にすると,鮮やかな“赤色”を呈するようになります。更に,それだけではなく,吸収した光エネルギーを補足するという,分子では成し得ないような不思議な特徴を持つようになるのです。
金属ナノ材料を化学の力でうまく合成し,思い通りに組み立てることができれば,きっと光エネルギーを自在に操る技術が確立されるでしょう。そうすれば,この技術を基にして,これまでにない高性能な太陽電池や,副作用のない癌治療等技術が発展するかもしれません。
このように,ナノ材料の研究は未知の可能性を秘めた研究分野であり,私たち人類にとって必要不可欠な技術をもたらす原動力になりうるのです。

細胞の運命を決定づける複合糖質 ~難病の診断や治療に向けて~

担当講師:鈴木 佑典

私たちの体は機能や性質の異なる多種多様な細胞で構成されています。
これら全ての細胞の表面は,糖タンパク質や糖脂質として存在する“複合糖質”の糖鎖で覆われており,細胞の運命を決定づけています。実際にヒトの一生を見てみると,受精から個体発生にかけて,そして,発生後も環境や年齢とともに細胞膜上の糖鎖構造は大きく変化し,特定の時期の組織・臓器に局在する各細胞の機能や性質に大きく関与しています。
例えば,細胞膜は脂質二重膜からできていますが,糖脂質の糖鎖構造の変化によって,細胞膜の流動性や各種受容体の局在が大きく変わります。また,ほとんどのタンパク質は何らかの糖鎖修飾されており,タンパク質の局在や機能において糖鎖修飾が重要であることが報告されています。
そして,近年では,様々な難治性疾患においても複合糖質の糖鎖構造が重要であることが明らかになりつつあることから,本講義では,診断や治療の標的としてどのように糖鎖科学が応用されているのかを紹介していきます。