相対性理論入門 -時間と空間の不思議な関係-

担当講師:二瓶 武史

アインシュタインの相対性理論によれば,動く時計の進み方は遅くなります。また,重力場が強い所にある時計の進み方は,弱い所に比べて遅くなります。特に重力場による時間の変化は,スカイツリーの展望台に置かれた時計を用いて,2020年に実験的に確かめられました。

この講義では,このような時間の進み方のずれが何故起きるのかについて学習します。
相対性理論で明らかにされたように,実は時間と空間には不思議な関係があるのです。講義では,それに基づいて展望台での時間のずれを計算して,実験結果と一致することを確かめます。

相対性理論は,宇宙や素粒子といった物理学の研究の基礎となるだけではなく,我々の生活に欠かせないスマホやカーナビ(GPS)の動作にも欠かせない知識となっています。

重力は時間の流れを変える
重力は時間の流れを変える

ブラックホールを見つけ出す -天体観測とビッグデータ-

担当講師:根來 均

ブラックホールは,もっともよく耳にする天体の一つですが,ブラックホール自体は光を出さないために観測できず,その存在自体を含め,まだまだ謎が多い天体です。その存在を示した相対性理論からは,ブラックホールのすぐ近くでは空間がゆがみ,時間の進み方も遅くなって観測されると予想されています。

では実際には,ブラックホールはどのようにして見つけ出され,どのように観測されるのでしょうか?
現在,共同研究を行っている,国際宇宙ステーションに搭載される全天X線監視装置(マキシ)での取り組みを例に,授業では,観測されるブラックホール天体の特徴や,ブラックホールを見つけ出すまで用いられている衛星間通信やデータベースなど情報処理技術についてもお話しします。

宇宙ステーションと全天X線監視装置 MAXI
宇宙ステーションと全天X線監視装置 MAXI
(図版・画像等の出典や引用元:NASA, JAXA)
MAXI が発見した 37 の新天体
MAXI が発見した 37 の新天体
研究室のデータ処理システム

恒星の進化と超新星

担当講師:藤井 紫麻見

恒星はずっと変わらないように見えるが,実際は誕生から進化,終末へと大きく変化していく。
その時間スケールは私たちの一生に比べとても長いため,恒星の大きな変化の様子を観測する機会はほとんどない。私たちは非常に数多くの恒星を観測して,その性質を調べ,比較し,進化の順に並べることによって恒星の一生を解明してきた。恒星は原始星として誕生し,主系列星,赤色巨星と進化しその最期を迎え,その最期は多彩であることがわかっている。

また例外として,恒星が大きく変化する様子を観測できるのが,新星や超新星といった恒星の爆発現象である。特に超新星は,一部の恒星がその終末に起こす大規模な爆発であるが,そのエネルギーが銀河や宇宙の進化にも影響を及ぼす。

この出張講義では,これまでに解明された恒星の進化と超新星の性質や影響について解説する。

恒星の進化と超新星
恒星の進化と超新星

音楽の数学(バイオリンの純正律とピアノの平均律)

担当講師:山中 雅則

音楽には基本的で重要な数学がいたるところに隠されています。それは大学で習う複雑で高度なものではありません。すべて高校数学の基本事項です。
さて,皆さんはどのような数学が隠されているか分かりますか?三角関数,対数関数,指数関数,有理数,無理数,素数,公約数と公倍数,素因数分解,有理数と無理数の整合,多項式と整数方程式・・・などが音波,音の大きさと聞こえ方,平均律,純正律,音階,和音,ピタゴラスのコンマ,協和音と不協和音,12音律・・・の中に隠されています。どれとどれが関係するのでしょうか?さらに,ピアノは無理数,バイオリンは有理数という対応ができます。なぜそうなるか分かりますか?
一方,弦楽器は高校物理の波動分野の基礎です。講義ではバイオリンを用いて,固定端と倍音・波長・振動数の関係,共鳴・うなりを弦の振動を実際に目で見て確認します。音色と正弦波の重ね合わせの関係をフラジオ奏法により実際に耳で聞いて確認することができます。

この授業では,音楽に隠されたこれらの数学と物理を実際にバイオリンを用いて1つ1つ実感していきます。
特徴は,高校数学の基礎を耳と目で確認するという楽しくユニークな実験です。音色についてはオシロスコープを用いていろいろな楽器の波形を目で見て確認します。応用として,フーリエ級数展開という大学の数学を少しだけやさしく説明します。
授業は,通常の教室とPC室のいずれへも対応しており,PC室で行う場合は,ヘッドマイクを用いて各自のPCへ音を取り込むことで一人一人がオシロスコープソフトウエアを操作して実験します。もしも,音楽室(ピアノ)を使うことができる場合は,ピアノの平均律とバイオリンの純正律を聴き比べることが可能です。

素数と音律の関係を拡張すると12音階ではないさまざまな音階を作ることができます。
その宇宙人の音楽も作曲してみましたので聞いてみましょう。時間が余ればバイオリンで一曲(?)いかがでしょうか。

原子物理学(放射能と放射線計測)

担当講師:山中 雅則

放射能や放射線は人間の5感では感じ取ることができません。人間は放射線を感じる臓器を持っていないからです。
放射線にはアルファ線・ベータ線・ガンマ線があります。アルファ線の正体はヘリウム原子核,ベータ線は高エネルギー電子,ガンマ線は電磁波の一種です。
一方,目は電磁波を感じ取ることができますが,目の感じ取ることのできる電磁波の周波数領域は可視光であり,ガンマ線は紫外線よりもずっと波長が短いために,目で感じ取ることはできません。そのため放射線を感じ取るためには放射線計測器が必要となります。

この授業では,原子核と原子核崩壊と放射線についての基礎知識を講義します。その後,放射線計測器を実際に使用して放射線の計測を実演します。放射線計測器にはいろいろな種類があり,それぞれ放射線の種類や強度,放射線計測器の構造や原理によって測定結果に非常なばらつきがあります。
この授業では

(1) ガイガーミュラー管を用いた,ガイガーカウンター
(2) 半導体検出器を用いた,半導体による放射線計測器
(3) シンチレータ結晶を用いた,シンチレーションカウンタ
(4) 放射能のスペクトルも計測できる,放射線スペクトロメータ
(5) アルファ線の計測も可能な雲母窓を用いた,放射線計測器

などを実際に用いて,身の回りの環境放射線などを主に計測することで放射線計測の様子を実感することができます。
特に,ガイガーカウンタでも機種によって非常にばらつきがあることなどを実際に比較して実演します。計測器の種類ごとにもばらつきがあることを実際に比較して実演します。また,それぞれの放射線計測器の計測原理なども合わせて簡単に紹介します。

計算機で薬をつくる

担当講師:山中 雅則

医薬品の開発(創薬)には長い開発期間と多額の開発費が必要である.
例えば, 1つの医薬品が市場に出るためには約15年の 年月と, 2000 億円程度の研究開発費が必要であるとされる.

創薬のステップは大きく分けて,対象疾病の選択,薬候補の探索・改良,臨床試験である。
このうち,薬候補の探索・改良について計算機上で行うことで大幅な期間短縮と研究費の削減が検討されている。このような,従来は実験室における実験で行っていた部分を計算機上で行う創薬方法はインシリコ創薬と言われる。
インシリコとはラテン語でシリコンの上で,つまり計算機の上でという意味である。実際に,インフルエンザの抗ウイルス薬では性能評価が行われている。この薬候補の探索・改良には,近年の計算機技術の発達やデータベースの整備により,分子動力学などの古典力学的手法や量子力学計算・量子化学計算などが用いられている。

これら,古典力学的,量子力学的な方法がどのように具体的に応用されているのかについて,物理学や情報科学の観点から説明する。

ギャンブラーの破産定理と宝くじ

担当講師:山中 雅則

賭け事やギャンブルは絶対に勝てないことを確率を用いて数学的に保障する定理として破産定理が知られています。
これはギャンブルではどのくらいの速さで破産するのかを保障する定理です。

定理の証明で使われるのは,数列の三項間漸化式と条件付き確率の恒等式のみであり,全て高校数学の範囲です。
これらを元にギャンブルがいかに危険なものであるのかについて説明を行い,ネットゲームでよく見られるガチャ,ネットカジノの仕組みや,パチンコ,競馬,競艇,競輪,宝くじ,株取引などの確率や危険度について比較や考察を行います。

電子が生み出す不思議な現象

担当講師:渡辺 忠孝

金属などの固体物質は天文学的な数の原子の配列とその中を泳ぐ伝導電子によって構成されています。
ミクロな世界の住人である電子は,集団運動によって時として我々の眼に見える形で非常に不思議な現象を引起すことがあります。
この授業ではそのような現象として熱電変換と超伝導を紹介し,物質科学の面白さに触れてもらいます。

熱電変換現象は電気と熱の相互作用を利用したエネルギー変換現象です。
固体中の電子は電気エネルギーの流れである電流の担い手ですが,同時に熱エネルギー流の担い手でもあります。これら電気と熱のエネルギーを効率よく変換する熱電変換材料は,電気を熱に変換する機能が小型の冷蔵庫などに応用され,逆に熱を電気に変換する機能は発電機としての応用が期待されています。
授業では熱電素子を用いて,温度差による発電や,電池による素子の冷却を体験します。

超伝導現象は,巨視的に観測できる最も劇的な量子現象の1つで,電気抵抗ゼロと完全反磁性(マイスナー効果)という2つの現象で特徴づけられます。
超伝導体の不思議な特徴は機能材料としての無限の可能性を秘めており,現在は送電ケーブルやリニアモーターカー,エネルギー貯蔵,CT スキャンなどの実用化が実現しつつある技術に加えて,量子コンピュータなどの未来のテクノロジーへの応用も期待されています。
授業では,超伝導体の不思議な性質を目の当たりにすることで,電子の集団運動が生みだす不思議な現象を体験します。

超伝導転移温度Tcの最高記録の変遷
超伝導転移温度Tcの最高記録の変遷

タンパク質の形を通して知る生命の仕組み

担当講師:鎌田 健一

生命活動を支えるタンパク質は,それぞれが独自の“かたち”をもち,その立体構造によって働きが決まります。
現在では,X線結晶構造解析やクライオ電子顕微鏡などの技術によって,これらの精密な構造を“見る”ことが可能になっています。
この講義では,ナノスケールの分子の世界を「構造生物学」の視点から読み解き,タンパク質のかたちと機能の関係について紹介します。

また近年は,自然界に存在しない新しいタンパク質を“創り出す”ために,計算機やAIを用いたタンパク質の設計技術が急速に発展しています。2024年のノーベル化学賞では,計算機によるタンパク質の立体構造予測や設計技術が受賞しました。
こうした最先端の成果にも触れながら,「タンパク質のかたちを見る・かたちを創る」ことが,生命科学や医療の進展にどうつながっているのかを,高校生の皆さんに向けて図や構造モデルを交えながら,分かりやすく解説します。
この出張講義を通して,構造生物学の魅力と可能性を感じてもらえることを目指します。

図1 タンパク質の結晶(左)と電子顕微鏡によるタンパク質の画像(右)
図1 タンパク質の結晶(左)と電子顕微鏡によるタンパク質の画像(右)
図2 結晶や電子顕微鏡のデータを解析してタンパク質のモデルを構築する
図2 結晶や電子顕微鏡のデータを解析してタンパク質のモデルを構築する

化学反応でわかる人体の異常

担当講師:松下 祥子

健康診断では, 血液や尿・画像などを用いて疾患の疑いがあるかを調べます.
そして, 疾患には特徴的なマーカー分子の増減が知られており, それらの化学構造や特性を利用した検査が行われています.
例えば, 尿潜血検査において尿中に漏れ出た赤血球に含まれるヘモグロビン量を測定することによって, 腎泌尿器疾患を見つけることができます. 尿潜血試験紙には酸化されると色が変わるo-トリジンやクメンヒドロぺルオキシドが含まれており, ヘモグロビンにより間接的に酸化され, 試験紙の色が変化して尿潜血を明らかにすることができます.
このような化学反応によって, 疾患を早期に発見することが可能となり, 私たちの健康が保たれています.

本講義では, 疾患時に体内で起こっている生化学反応や健康診断時の検査法に用いられる化学反応に焦点を当て, 健康がどのように守られているかを紹介していきます.