土を軽くする,強くする(地盤の軽量化・補強の新技術)

担当講師:峯岸 邦夫

国土の狭い我が国では,埋立て地のような地盤条件の良くない場所にも交通施設(道路や鉄道,空港など)を建設しなければなりません。
その際に従来のような重い材料を使って建設をすると地盤沈下を起こし,交通施設に大きな影響をもたらします。

そこで,地盤沈下を起こさないように発泡スチロールを単体や土に混ぜた軽い材料で交通施設を建設する技術や,元々引っ張られる力に弱い土に補強材という材料を挿入または敷設して地盤を強くする新しい技術について紹介します。

東京外環自動車道・三郷ジャンクション
東京外環自動車道・三郷ジャンクション

分子デバイスをめざす化学

担当講師:大月 穣

化学は,物質がどのような構造をし,それがどのように変化するかを,原子・分子のレベルから明らかしようという科学です.

化学者は,そのような研究の蓄積を学び,さらに新しい反応を発見したりしながら,世界中どこを探しても存在しない新しい分子を設計して,作り出すことができます.最近の研究では,さらに分子を望み通りに組み立てて,新しい物質を作り出すことができるようになってきました.分子を一つずつ作って組み立ててというのは,実は自然界では生物がいとも簡単そうに行なっていることではあります.

植物が,光エネルギーを化学エネルギーに高効率で変換する光合成を行えるのも,分子が精密に並べられた天然分子デバイスを持っているためです.

人間が分子をよりコントロールして組み立てることができれるようになれば,原子・分子レベルで働く究極のデバイスを作ることができるようになります.より優れた光合成を行う人工分子デバイスを組み立てることも可能になるかもしれません.

新しい分子,物質,分子デバイスを作ることを夢みて,日々行なっている研究を紹介します,

身の回りの高分子

担当講師:清水 繁

高分子という概念は確立してから70年程度と比較的新しい分野です。しかしながら,現代の生活には欠かすことができない材料で身の回りにあふれています。

本講義では,高分子という概念がいかに成立したか歴史的背景,身近な高分子材料についての話から始め,高分子の性質や特徴について述べます。

また,そのような性質や特徴が高分子を構成する繰り返し単位の化学的性質だけでなく,集合体としての性質も大きく寄与していることを述べます。これらの性質を測定するための実験的手法についても述べます。

これまで知られている高分子材料の性質を概観し,さらに今後期待される新規高分子材料についても展望します。

化粧品の無機材料化学

担当講師:遠山 岳史

化粧品とは有機材料であるのか,無機材料であるのかと聞かれたら,化学を少しでも勉強したことのある皆さんのほとんどは有機材料であると答えるでしょう。
確かに,化粧品は私たちの肌に直接塗るものであるので有機材料であると考えるのではないでしょうか。しかし,実際には有機物は含まれていますが,きれいに見せるための主成分は無機材料です。
では,どうして化粧品には無機材料が必要なのでしょうか。化粧品には,近年,単純に色をつけてきれいに見せるだけでなく,紫外線防止,透明感をだす,きらめく,長時間持続させる,小顔にみせる,などの機能を化粧品に付与することが求められています。
たとえば,唇や爪などをきらめかせるパール顔料は真珠(パール)の輝きを模倣した材料です(写真1)。このパール顔料を切断した走査型電子顕微鏡写真が写真2ですが,肌に塗布しやすいように粒子は板状の形をしています。また,粒子内部を見てみると雲母の周りに酸化チタンがコーティングされた積層構造をしています。屈折率の違う無機材料を光が通過することで回折現象が起こり,見る角度によってさまざまな色となります。
このように,化粧品の機能化は粉体の大きさ,形状,さらにはその分布などの形態制御を行うことで様々な用途へと変身させています。

そこで,本講義では化粧品の機能化に及ぼす無機材料の役割を化学的にわかりやすく解説いたします。

写真1
写真2

材料をつないでモノを作る

担当講師:渡邉 満洋

身の回りにある便利な機械は様々な材料から作られています。
特に近年では,機械の小型化,軽量化,多機能化が急速に発展しているため,一つの材料で構成されている機械はほとんどなく,それぞれの材料の特性を活かして適材適所に材料を配置して機械が作られています。
そのため,機械(モノ)を作るためには異なる材料を「つなぐ(接合する)」技術が必要になります。

では,異なる材料をつなぐことは簡単でしょうか。
答えはNoです。なぜならば,材料はそれぞれ固有の特性を持っているためです。
異なる性質を持つ材料をつないで一つのモノを作り,みなさんが安心・安全に使うことができるようにするためには,材料と材料の境目(接合界面)の状態(組織)を精密に制御する必要があります。

本講義では,接合技術ならびにそれが生み出す接合界面組織と強度の関係について紹介します。

アルミニウム(Al)と鉄(Fe)の接合材の一例.
アルミニウム(Al)と鉄(Fe)の接合材の一例.
接合界面組織の電子顕微鏡像の一例.
接合界面組織の電子顕微鏡像の一例.

ものの形が変わることとエネルギー

担当講師:星野 倫彦

ものに力を加えると形が変わります。
(1)ものがバネの場合,加えている力を取り除くと元の形に戻ろうとする動きを始めますが,元の形に戻った所で動きを止めるのではなく,振動という往復運動になります。しかし,この振動も時間が経つと動きが小さくなり,やがては止まってしまいます。
(2)ものが粘土の場合,加えた力を取り除いても力によって作られた形のままとなり,ばねのように戻ることはありません。

この2つの場合とも加えた力による仕事がエネルギーとなりますが,バネの場合は弾性エネルギーとして蓄積され,粘土の場合は変形の際に内部摩擦により熱エネルギーへと変って放出されてしまいます。
このエネルギーが変換されることと,集まったエネルギーが拡散していくことを具体的な実験で理解します。

また,粘土の変形は,いろいろな力を加えた結果としてできる形と無駄な変形をさせずに作った形が存在し,できた製品に強度の違いが生じることも実験します。
その後,自動車の車体などの金属板を所要の形に作るのに,様々な工夫がなされていることを紹介します。

粘土の変形イメージ図
車のエネルギーイメージ図

電子が生み出す不思議な現象

担当講師:渡辺 忠孝

金属などの固体物質は天文学的な数の原子の配列とその中を泳ぐ伝導電子によって構成されています。
ミクロな世界の住人である電子は,集団運動によって時として我々の眼に見える形で非常に不思議な現象を引起すことがあります。
この授業ではそのような現象として熱電変換と超伝導を紹介し,物質科学の面白さに触れてもらいます。

熱電変換現象は電気と熱の相互作用を利用したエネルギー変換現象です。
固体中の電子は電気エネルギーの流れである電流の担い手ですが,同時に熱エネルギー流の担い手でもあります。これら電気と熱のエネルギーを効率よく変換する熱電変換材料は,電気を熱に変換する機能が小型の冷蔵庫などに応用され,逆に熱を電気に変換する機能は発電機としての応用が期待されています。
授業では熱電素子を用いて,温度差による発電や,電池による素子の冷却を体験します。

超伝導現象は,巨視的に観測できる最も劇的な量子現象の1つで,電気抵抗ゼロと完全反磁性(マイスナー効果)という2つの現象で特徴づけられます。
超伝導体の不思議な特徴は機能材料としての無限の可能性を秘めており,現在は送電ケーブルやリニアモーターカー,エネルギー貯蔵,CT スキャンなどの実用化が実現しつつある技術に加えて,量子コンピュータなどの未来のテクノロジーへの応用も期待されています。
授業では,超伝導体の不思議な性質を目の当たりにすることで,電子の集団運動が生みだす不思議な現象を体験します。

超伝導転移温度Tcの最高記録の変遷
超伝導転移温度Tcの最高記録の変遷

“たくさん”が創る“ひとつ”の世界――相転移現象にみる集団性と秩序の誕生――

担当講師:河村 泰良

皆さんもご存じの通り,水は冷やすとある温度で突然氷になり,温めると水蒸気となって蒸発します。
日常の中では当たり前のことのように思えるかもしれませんが,温度を変えるだけで,たくさんの水分子の集まりが,まるで一つの意思をもったかのように性質をガラッと変える――改めて考えてみるととても不思議な現象です。

実はこのような現象は,水に限らず,さまざまな物質で見られます。
例えば,金属を十分に冷やすと,ある温度で突然,電気抵抗がゼロである「超伝導状態」と呼ばれる特殊な状態に移行します。また,普段はクリップなどを引きつける磁石も,加熱していくとある温度で磁力を失ってしまいます。

このように,温度を変えただけで物質の性質が劇的に変化するという,身近ながら奥深い現象の背後には,「たくさん」の粒子が集まったときに生まれる協調的なふるまいが潜んでいます。
これは,「ひとつ」の粒子では決して起きない変化が,集団として協力しあうことで初めて生じる現象であり,物理学では「相転移現象」と呼びます。

私たち理論物理の研究者は,この相転移のしくみを,熱力学や統計力学という物理の言葉で読み解いています。
この講義では,相転移の不思議さと面白さを,身近な例や簡単なシミュレーションも交えながらやさしく紹介し,熱・統計力学という深遠な物理の世界へと皆さんをご案内できればと思います。

相転移現象の例(磁石)
相転移現象の例(磁石)

身近に使われている高性能コンクリート

担当講師:佐藤 正己

これまでの歴史の中で,地震国である日本では非常に短いスパンで構造物が造り変えられてきました。
それは,近代国家として歩み始めた明治時代から使用され始めたセメントコンクリート構造物でも例外ではなく使用され始めてから長い間30~40年程度の長さを想定して設計されてきました。

近年,コンクリートは,薬剤や新材料の開発によってコンクリートの強度,耐久性が飛躍的に増加し,耐久年数100年といった構造物が造られ始めています。このような超高強度コンクリートは,耐久性を求められる公共施設や超高層マンションに用いられています。
また,公共工事には,用途に応じてさまざまな性能を付与した特殊コンクリートが用いられ,社会基盤を支えています。

本講義においては,長寿命化を実現した超高強度コンクリートをはじめとする特殊コンクリートを身近な事例を挙げながら紹介します。

セメントが固まるのは乾くと勘違いされている方もいらっしゃると思いますが,化学反応で硬化します。少人数でご要望があれば,簡単な実験をすることも可能です。

羽田空港4番目の滑走路
(1)普通コンクリートの5倍の強度のコンクリートを使用し2010年に竣工した羽田空港4番目の滑走路
43階建の分譲マンション
(2)普通コンクリートの5倍の強度のコンクリートを使用した43階建の分譲マンション