ブラックホールを見つけ出す -天体観測とビッグデータ-

担当講師:根來 均

ブラックホールは,もっともよく耳にする天体の一つですが,ブラックホール自体は光を出さないために観測できず,その存在自体を含め,まだまだ謎が多い天体です。その存在を示した相対性理論からは,ブラックホールのすぐ近くでは空間がゆがみ,時間の進み方も遅くなって観測されると予想されています。

では実際には,ブラックホールはどのようにして見つけ出され,どのように観測されるのでしょうか?
現在,共同研究を行っている,国際宇宙ステーションに搭載される全天X線監視装置(マキシ)での取り組みを例に,授業では,観測されるブラックホール天体の特徴や,ブラックホールを見つけ出すまで用いられている衛星間通信やデータベースなど情報処理技術についてもお話しします。

宇宙ステーションと全天X線監視装置 MAXI
宇宙ステーションと全天X線監視装置 MAXI
(図版・画像等の出典や引用元:NASA, JAXA)
MAXI が発見した 37 の新天体
MAXI が発見した 37 の新天体
研究室のデータ処理システム

恒星の進化と超新星

担当講師:藤井 紫麻見

恒星はずっと変わらないように見えるが,実際は誕生から進化,終末へと大きく変化していく。
その時間スケールは私たちの一生に比べとても長いため,恒星の大きな変化の様子を観測する機会はほとんどない。私たちは非常に数多くの恒星を観測して,その性質を調べ,比較し,進化の順に並べることによって恒星の一生を解明してきた。恒星は原始星として誕生し,主系列星,赤色巨星と進化しその最期を迎え,その最期は多彩であることがわかっている。

また例外として,恒星が大きく変化する様子を観測できるのが,新星や超新星といった恒星の爆発現象である。特に超新星は,一部の恒星がその終末に起こす大規模な爆発であるが,そのエネルギーが銀河や宇宙の進化にも影響を及ぼす。

この出張講義では,これまでに解明された恒星の進化と超新星の性質や影響について解説する。

恒星の進化と超新星
恒星の進化と超新星

音楽の数学(バイオリンの純正律とピアノの平均律)

担当講師:山中 雅則

音楽には基本的で重要な数学がいたるところに隠されています。それは大学で習う複雑で高度なものではありません。すべて高校数学の基本事項です。
さて,皆さんはどのような数学が隠されているか分かりますか?三角関数,対数関数,指数関数,有理数,無理数,素数,公約数と公倍数,素因数分解,有理数と無理数の整合,多項式と整数方程式・・・などが音波,音の大きさと聞こえ方,平均律,純正律,音階,和音,ピタゴラスのコンマ,協和音と不協和音,12音律・・・の中に隠されています。どれとどれが関係するのでしょうか?さらに,ピアノは無理数,バイオリンは有理数という対応ができます。なぜそうなるか分かりますか?
一方,弦楽器は高校物理の波動分野の基礎です。講義ではバイオリンを用いて,固定端と倍音・波長・振動数の関係,共鳴・うなりを弦の振動を実際に目で見て確認します。音色と正弦波の重ね合わせの関係をフラジオ奏法により実際に耳で聞いて確認することができます。

この授業では,音楽に隠されたこれらの数学と物理を実際にバイオリンを用いて1つ1つ実感していきます。
特徴は,高校数学の基礎を耳と目で確認するという楽しくユニークな実験です。音色についてはオシロスコープを用いていろいろな楽器の波形を目で見て確認します。応用として,フーリエ級数展開という大学の数学を少しだけやさしく説明します。
授業は,通常の教室とPC室のいずれへも対応しており,PC室で行う場合は,ヘッドマイクを用いて各自のPCへ音を取り込むことで一人一人がオシロスコープソフトウエアを操作して実験します。もしも,音楽室(ピアノ)を使うことができる場合は,ピアノの平均律とバイオリンの純正律を聴き比べることが可能です。

素数と音律の関係を拡張すると12音階ではないさまざまな音階を作ることができます。
その宇宙人の音楽も作曲してみましたので聞いてみましょう。時間が余ればバイオリンで一曲(?)いかがでしょうか。

原子物理学(放射能と放射線計測)

担当講師:山中 雅則

放射能や放射線は人間の5感では感じ取ることができません。人間は放射線を感じる臓器を持っていないからです。
放射線にはアルファ線・ベータ線・ガンマ線があります。アルファ線の正体はヘリウム原子核,ベータ線は高エネルギー電子,ガンマ線は電磁波の一種です。
一方,目は電磁波を感じ取ることができますが,目の感じ取ることのできる電磁波の周波数領域は可視光であり,ガンマ線は紫外線よりもずっと波長が短いために,目で感じ取ることはできません。そのため放射線を感じ取るためには放射線計測器が必要となります。

この授業では,原子核と原子核崩壊と放射線についての基礎知識を講義します。その後,放射線計測器を実際に使用して放射線の計測を実演します。放射線計測器にはいろいろな種類があり,それぞれ放射線の種類や強度,放射線計測器の構造や原理によって測定結果に非常なばらつきがあります。
この授業では

(1) ガイガーミュラー管を用いた,ガイガーカウンター
(2) 半導体検出器を用いた,半導体による放射線計測器
(3) シンチレータ結晶を用いた,シンチレーションカウンタ
(4) 放射能のスペクトルも計測できる,放射線スペクトロメータ
(5) アルファ線の計測も可能な雲母窓を用いた,放射線計測器

などを実際に用いて,身の回りの環境放射線などを主に計測することで放射線計測の様子を実感することができます。
特に,ガイガーカウンタでも機種によって非常にばらつきがあることなどを実際に比較して実演します。計測器の種類ごとにもばらつきがあることを実際に比較して実演します。また,それぞれの放射線計測器の計測原理なども合わせて簡単に紹介します。

ギャンブラーの破産定理と宝くじ

担当講師:山中 雅則

賭け事やギャンブルは絶対に勝てないことを確率を用いて数学的に保障する定理として破産定理が知られています。
これはギャンブルではどのくらいの速さで破産するのかを保障する定理です。

定理の証明で使われるのは,数列の三項間漸化式と条件付き確率の恒等式のみであり,全て高校数学の範囲です。
これらを元にギャンブルがいかに危険なものであるのかについて説明を行い,ネットゲームでよく見られるガチャ,ネットカジノの仕組みや,パチンコ,競馬,競艇,競輪,宝くじ,株取引などの確率や危険度について比較や考察を行います。

電子が生み出す不思議な現象

担当講師:渡辺 忠孝

金属などの固体物質は天文学的な数の原子の配列とその中を泳ぐ伝導電子によって構成されています。
ミクロな世界の住人である電子は,集団運動によって時として我々の眼に見える形で非常に不思議な現象を引起すことがあります。
この授業ではそのような現象として熱電変換と超伝導を紹介し,物質科学の面白さに触れてもらいます。

熱電変換現象は電気と熱の相互作用を利用したエネルギー変換現象です。
固体中の電子は電気エネルギーの流れである電流の担い手ですが,同時に熱エネルギー流の担い手でもあります。これら電気と熱のエネルギーを効率よく変換する熱電変換材料は,電気を熱に変換する機能が小型の冷蔵庫などに応用され,逆に熱を電気に変換する機能は発電機としての応用が期待されています。
授業では熱電素子を用いて,温度差による発電や,電池による素子の冷却を体験します。

超伝導現象は,巨視的に観測できる最も劇的な量子現象の1つで,電気抵抗ゼロと完全反磁性(マイスナー効果)という2つの現象で特徴づけられます。
超伝導体の不思議な特徴は機能材料としての無限の可能性を秘めており,現在は送電ケーブルやリニアモーターカー,エネルギー貯蔵,CT スキャンなどの実用化が実現しつつある技術に加えて,量子コンピュータなどの未来のテクノロジーへの応用も期待されています。
授業では,超伝導体の不思議な性質を目の当たりにすることで,電子の集団運動が生みだす不思議な現象を体験します。

超伝導転移温度Tcの最高記録の変遷
超伝導転移温度Tcの最高記録の変遷

化学反応でわかる人体の異常

担当講師:松下 祥子

健康診断では, 血液や尿・画像などを用いて疾患の疑いがあるかを調べます.
そして, 疾患には特徴的なマーカー分子の増減が知られており, それらの化学構造や特性を利用した検査が行われています.
例えば, 尿潜血検査において尿中に漏れ出た赤血球に含まれるヘモグロビン量を測定することによって, 腎泌尿器疾患を見つけることができます. 尿潜血試験紙には酸化されると色が変わるo-トリジンやクメンヒドロぺルオキシドが含まれており, ヘモグロビンにより間接的に酸化され, 試験紙の色が変化して尿潜血を明らかにすることができます.
このような化学反応によって, 疾患を早期に発見することが可能となり, 私たちの健康が保たれています.

本講義では, 疾患時に体内で起こっている生化学反応や健康診断時の検査法に用いられる化学反応に焦点を当て, 健康がどのように守られているかを紹介していきます.

数理最適化入門 −線形計画問題−

担当講師:伊藤 勝

数理最適化は,「最も良い手段を求める」ための数学の理論です。より具体的には,与えられた条件のもとで,ある関数の最大値や最小値を求める問題を最適化問題といい,この問題を解くことが数理最適化の目的です。
高校の数学では,最大値や最小値を求める問題が様々ありますが,それらは最適化問題の一種と言えるでしょう。より身近な例としては,路線検索サービスを使って,行き先までの交通費や移動時間が最小のルートを探すことは,最適化問題を解いていると見なすことができます。
このように数理最適化は様々な場面で登場することがわかります。

その中でも線形計画問題は,高校の数学にも登場する基本的な最適化問題のひとつであり,より一般的な視点から眺めると美しい数学の性質が見えてきます。

この講座では,数理最適化の入門や線形計画問題に関わる数学の理論について紹介していきます。

不変量

担当講師:笠川 良司

輪ゴムのようにゴムでできた物体を考えます。
ゴムで作られていますから,少し力を加えれば形は少し変わります。切れない程度に力を加えていくと,かなり形は変わります。しかし,形は変わっても同じ物と普通は考えます。
位相幾何学では,図形や物体の形が少しぐらい変わっても,更にはその積み重ねで見た目がだいぶ変わったとしても同じ図形,物体と考える幾何学です。少し言い方をかえると2つの図形が同じであるとは片方を少しずつ変化させてもう一方の図形になる場合をいいます。

さて,2つの図形があるとします。これらの図形は同じかを考えます。
同じであれば少しずつ変形して同じ形にすれば良いのですが,(といっても簡単ではありませんが)異なる場合どうすれば異なることを示せるのでしょうか。
いくら変形しても同じ形にならないからといって,違うとは言えません。もしかしたら別のやり方で同じ形になるかもしれません。すべての変形を試せば良いのですが,変形のやり方は無限に多くあるので,いくらやっても終わりません。
ここで登場するのが不変量です。例えば,いま考えている図形1つ1つには数が対応しているとします。この数が図形の少しずつの変形では変わらないとします。すると少しずつの変形で移りあう図形は同じ数が対応します。ということは,この数が異なる図形は同じ図形ではないということになります。

身近なところでは,ボールと浮き輪は上の意味で違うものです(見た目にも明らかに違います)が,これらも不変量で区別できます。それは何でしょうか。

複素数でつながる代数と幾何

担当講師:月岡 透

みなさんが複素数と初めて出会うのは,2次方程式の解の公式においてだと思います。
「解なし」としてしまえば,話はそこで終わってしまいますが,想像力を豊かにして,2乗してマイナス1になる数も数の仲間にしますと,2次方程式は「いつでも解を持つ」と言うことができます。
 
数学の勉強を進めていくと,「複素平面」というものを習うことになります。
これはひとつひとつの複素数をそれぞれ平面上の点だと思うことにして,平面幾何の問題をそのまま考えるのではなく,複素数の計算を通していろいろと調べてみようというものです。たとえば複素数のたしざんやかけ算は,平面上の点の平行移動や回転に対応することになります。
 
もう少し先に進むと,今度は逆に,普通の平面上の座標を表すふたつの実数を複素数にしてしまうことを考えます。
すると,平面上に描かれた放物線,楕円,双曲線は複素数の空間に広がり,互いに写り合い,結局は同じものになってしまいます。このような奥行きのある世界では,2次式がお団子(リーマン球面)になったり3次式がドーナツ(楕円曲線)になったりします。
 
複素数は,想像上の数ではありますが,慣れ親しんでいくと感覚に訴える現象が見つかります。このような話題から,代数や幾何に関する興味深いものを選んでお話ししたいと思います。