日本大学理工学部 日本大学大学院理工学研究科
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2023年03月28日

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【プレスリリース】全天X線監視装置 MAXI による数千年に一度の 史上最強のガンマ線バースト GRB 221009A の検出

大学院理工学研究科物理学専攻の小林浩平(博士後期課程)と同学科の根來均教授らは、国際宇宙ステーション(ISS)に搭載された全天X線監視装置MAXI(マキシ)を用いて、数千年に一度と考えられる史上最強のガンマ線バースト GRB 221009AからのX線残光の初期観測に成功しました。本成果は、理化学研究所、千葉大学、青山学院大学、東京工業大学、米ペンシルバニア州立大学、米NASAゴダード宇宙飛行センターなどからなる国際共同研究グループにより米国の天体物理学専門誌 “Astrophysical Journal Letters” に論文発表しました[文献1]。

発見の経緯
昨秋2022年10月9日の日本時間 22時58分、MAXIは、全天で2番目に明るくなった突発X線天体を銀河面近くで検出しました[2](図1)。その12分後に、NASAのガンマ線バースト観測衛星スウィフトでも同天体を検出しました[3]。MAXIの観測時、ISSと地上はリアルタイム通信ができなかったため、スウィフトに次いで世界で2番目に速報を出しました[注1] [2]。その後、MAXIの最初の検出に先立つ同22:16にこれまで検出された中で最も明るいガンマ線バースト[注2]が同天体付近で発生したとNASAのガンマ線観測衛星フェルミの観測チームから報告がありました[4]。
GRB 221009Aと名付けられたそのガンマ線バーストは、上記のアラート(報告)により世界中の天文台の望遠鏡や観測装置により観測が行われました。その結果、これまでで最も明るいガンマ線バーストより70倍明るいという観測史上最大のガンマ線バーストだったことが判明しました[注3]。そして、MAXIが受けたのはそのX線残光[注2]で、軟X線領域での残光の最初の観測となりました。

図1 MAXIによって得られたガンマ線バースト発生前後各6時間でのX線カラーイメージ(銀河座標系)。はくちょう座にあるX-1星は有名なブラックホール天体。

MAXI による1スキャン観測(92分ごと)のイメージ

数千年に一度の規模の明るさのガンマ線バースト
19億光年も離れているにもかかわらず、ガンマ線バースト本体は静穏時の太陽と同程度というとてつもない強いX線強度でした。その結果、the BOAT (the Brightest Of All Timeの略で、史上最も明るいものの意)とも呼ばれています[5]。 その発生頻度をこれまでに検出されたガンマ線バーストの明るさと距離の分布などから見積もったところ、千年から一万年に一度の現象であることがわかりました [1, 5]。
一方でMAXIが受けたX線残光も、これまでスウィフト衛星が17年間に観測した約400のガンマ線バーストの残光の中で最も明るいものよりもさらに1桁ほど明るかったことがわかりました [1]。MAXIは約1時間半で全天を1回スキャン観測していますが、X線残光は急激に減光するため、通常、X線残光は受かっても 0.1 Crab[注4] 程度の強度のものが1回のみでした。しかし、今回は、発生41分後でありながら初回の観測では約2.5 Crabもあり、その後も5スキャン(7.5時間)に渡って検出されました [1, 6](図2)。

図2 フェルミ衛星のGBM検出器、MAXI、スウィフト衛星のX線望遠鏡 XRT、NICERによって得られたGRB 221009A のX線光度曲線。X線残光のデータは文献1から、フェルミ衛星のデータは https://fermi.gsfc.nasa.govより入手し、他と同じエネルギー帯域での強度に換算しました。(即時放射はあまりにも明るかったため、GBM検出器も飽和してしまい、また換算時の不確定性から、即時放射の強度は1桁ほどの不確定性があります。)

X線リングとMAXIにより明らかになった初期X線残光の特徴
GRB 221009A は図1のように銀河面に近い位置で発生し、その光は銀河系内の塵の層をいくつも透過してきました。その結果、スウィフト衛星による観測では幾重にも重なる「X線リング」が観測されました[注5]。MAXIのデータでは中心の残光と反射リングを区別できないため、小林院生は、スウィフト衛星のデータも用いてX線リングを考慮したMAXIのデータの詳細な解析を行いました。その結果、初期のX線残光はその後の残光から予想される明るさより暗く(図2)、エネルギースペクトルも異なることがわかりました。これらの情報は、ガンマ線バーストとして放出されるジェットの特徴を明らかにするのに役立ちます。
以上の結果はMAXIチーム、スウィフトチーム、NICER(ナイサー)チームと共同でまとめ、米国の天体物理学専門誌 “Astrophysical Journal Letters”の特別号に論文が掲載されました [1]。
過去最大の明るさだったがゆえに、これまでになくガンマ線バーストとその残光の特徴が数多く詳細に得られた今回の結果は、今後、まだ謎が多いガンマ線バーストとその残光を理解する上で多くの情報を与えるものと考えられます[注6]。また、MAXIによる全天X線観測においては、重力波観測がまもなく5月から再開されることもあり、ブラックホール新星をはじめとする新たな突発天体と突発現象の発見が期待されています。

文献
1. Williams, M. et al. 2023, “GRB 221009A: Discovery of an Exceptionally Rare Nearby and Energetic Gamma-Ray Burst”, The Astrophysical Journal Letters, 特別号
2. Negoro, H. et al. 2022, The Astronomers Telegram, 15651
3. Dichiara, S. et al. 2022, The Gamma-ray Coordinates Network, 32632
4. Veres, P. et al. 2022, The Gamma-ray Coordinates Network, 32636
5. Burns, E. et al. 2023, arXiv e-print, arXiv:2302.14037
6. Kobayashi, K. et al. 2022, The Gamma-ray Coordinates Network, 32756

※ 文献1の著者(全36機関, 56名)
MAXIチームの共著者
日本大学 理工学部 物理学科
  教授 根來 均(ネゴロ・ヒトシ)
  大学院理工学研究科物理学専攻(博士後期課程2年)小林 浩平(コバヤシ・コウヘイ)
理化学研究所 開拓研究本部 
  専任研究員 三原 建弘(ミハラ・タテヒロ)
青山学院大学 理工学部 物理科学科
  助教 杉田 聡司(スギタ・サトシ)
  助教 芹野 素子(セリノ・モトコ)
東京工業大学 理学院 物理学系
  教授 河合 誠之(カワイ・ノブユキ)

スウィフトチームの主な共著者
米 ペンシルバニア州立大学
  Maia A. Williams, Jamie A. Kennea, S. Dichiara
英 レスター大学
  Andrew P. Beardmore, P.A. Evans
米 NASA ゴダード宇宙飛行センター, メリーランド大学
  S. Bradley Cenko
NICERチームの主な共著者
千葉大学 ハドロン宇宙国際研究センター(ICEHAP)/ 国際高等研究基幹
(MAXIチーム)
  助教 岩切 渉(イワキリ・ワタル)
米 NASA ゴダード宇宙飛行センター
  Keith C. Gendreau

国内のMAXIチーム
 理化学研究所、日本大学、青山学院大学、JAXA、愛媛大学、東京工業大学、京都大学、宮崎大学、中央大学、千葉大学

注釈
1.スウィフト衛星は、日本時間9日の23:10に検出後、23:39に報告しています。MAXIは22:58に検出しましたが、そのデータが地上に降りてきたのは、次のスキャン観測のデータが10 日の00:31にリアルタイムで下りてきたあとの00:55でした。その結果、報告は10日02:24となりました。フェルミ衛星による検出は、同10 日05:54に報告がなされました。なお、フェルミの報告まで、同天体はガンマ線バーストではなく、X線新星 Swift J1913.1+1946 という天体名で報告されています。

2.今回観測された、最も一般的なタイプである継続時間の長いガンマ線バーストの構成を以下の図に示します。 大質量星(左)のコアが崩壊し、ブラックホールが形成されます。このブラックホールは、粒子ジェットを放出し、それは崩壊する星の中を突き抜け、ほぼ光速で宇宙空間に放出されます。多波長にわたる放射は、生まれたばかりのブラックホールの近くにある高温電離ガス(プラズマ)、ジェット内の高速で移動するガスのシェル間の衝突(内部衝撃波)、および星間ガスを押しのけるジェットの前縁(外部衝撃波)から発生します。ガンマ線バースト本体(即時放射)は初期の内部衝撃波からの放射で、残光は続く外部衝撃波からの放射と考えられています。

Credit: NASAゴダード宇宙飛行センター

3.GRB 221009Aはもともとの放射エネルギー自体も大きく、近傍(赤方偏移1以下)つまり最近(宇宙年齢70億年以降)では観測史上最大のガンマ線バーストでした。その上、距離19億光年(赤方偏移0.151、VLT望遠鏡)という異例な近傍で発生したために、史上最も強いものとなりました 。なお、これほど強いガンマ線であれば、MAXIは視野外であっても検出できますが、今回はガンマ線バースト源が地球に隠れていたため検出できませんでした。

4.Crab はカニ星雲(カニパルサー含む)のX線強度を基準としたX線やガンマ線天文学で用いられる明るさの単位です。図2の目盛では約2が 1 Crabです。最も明るい天体は、太陽以外で最初に発見されたX線源さそり座X-1星で、約20 Crab です。

5.GRB 221009Aの最初の閃光X線の一部は、私たちの銀河系内の塵により反射され、光路長が長くなって遅れて地球に届きます。今回、銀河の腕に沿って塵が何か所もあるため、異常な数のX線リングが出現しました。以下の図はスウィフト衛星のX線望遠鏡によって 12 日間にわたって撮影された画像から作成されました。

Credit: NASA/Swift/A. Beardmore (University of Leicester)

6.ジェームズウェブ宇宙望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡で分光観測がなされましたが、超新星の兆候は見つかっていません。重力波天文台は休止中でした。

1 https://iopscience.iop.org/collections/apjl-230323-172_Focus-on-the-Ultra-luminous-GRB-221009A
2 NASA の特設サイト https://www.nasa.gov/feature/goddard/2023/nasa-missions-study-what-may-be-a-1-in-10000-year-gamma-ray-burst/
米天文学会の特設サイト https://aas.org/meetings/head20/press https://www.youtube.com/c/AASPressOffice

【本件に関する報道・メディア関係のお問合せ】
日本大学理工学部
物理学科 教授 根來均 
Mail:negoro.hitoshi@nihon-u.ac.jp
Tel:03-3259-0893
リリース日時
日本時間2023年(令和5年)3月29日午前9時