研究紹介
- 日本大学衛星の開発を通じて行う航空宇宙研究者交流拠点の創生
- 加速器とプラズマで挑む宇宙高速電波バースト現象の実験室的検証
- 量子多体問題と量子情報科学の基礎研究
- 超小型衛星による電離圏観測と地上観測網を融合した早期地震警戒システムの研究
- NUBICにおける特許件数
- 学外からの研究補助金
- 受賞紹介
- 日本大学理工学部学術講演会
日本大学衛星の開発を通じて行う航空宇宙研究者交流拠点の創生
航空宇宙工学専攻 教授 奥山 圭一

今回、小型衛星「てんこう2」を開発しました。太陽活動変動に伴って宇宙線量が増減しますが、「てんこう2」はこの変化に加え、高真空、赤外線、紫外線、原子状酸素や大きな温度差、温度サイクルが複合する宇宙環境の変動と新しいポリマーの劣化特性との関係も取得します。この他、アマチュア無線帯先進通信試験、高解像度AI カメラを用いた地球撮像なども行います。
「てんこう2」プロジェクトのひとつに「N. U Cosmic Campus(NUCC)」があります。これは芸術学部と理工学部、付属高校が連携して「未来のアーティストとクリエイター」「未来の科学者とエンジニア」による宇宙開発を実践したものです。NUCCミッションのひとつとして、バーチャル宇宙飛行士のキャプテンヒカルが搭乗します。たった一人で「てんこう2」を運用する設定で、付属高校の吹奏楽部が演奏した楽曲「We Are The World」をデータ化し、世界中に届けます。この取り組みは2024年1月10日から2月13日にかけて文部科学省新庁舎エントランスにおいて日本大学にしかできないこととして紹介されました。
「てんこう2」打ち上げ後は後継機(てんこう3)の開発と打ち上げも予定しています。「てんこう2」「てんこう3」の開発は日本以外の国々とも連携して行うもので、複数の国々と協定を結ぶことができました。持続的な、諸外国からの博士後期課程学生や教職員の受け入れと派遣などを実現していきます。
加速器とプラズマで挑む宇宙高速電波バースト現象の実験室的検証
物理学専攻 准教授 住友 洋介

近年宇宙観測で検出されているある電波信号に大きく注目が集まっています。この信号は「高速電波バースト現象」と呼ばれており、観測史上宇宙最高輝度クラス、ミリ秒程度の短い放出であることや突発的な事象が多いことなどを含め、これまでに認識されている天体現象とは大きく異なる特徴を持っていることがわかっています。また、このことより、この天体現象を理解するのに既存の理解を超えた放出メカニズムの解明が求められている状況です。本研究では、加速器物理で利用されている相対論的集団効果や積分効果による非線形増幅現象が高速電波バースト現象のメカニズムの鍵となる可能性を追求するため、地上の実験装置での擬似状態の再現に取り組んでいます。
特に、観測信号の特徴として現れているプラズマによる高い影響力をヒントに、加速粒子により放出された星の莫大なエネルギーが周辺の水素プラズマとの相互作用により非線形に蓄積増幅され、短い時間での高出力放出現象となることを加速器装置で実現しようとしています。実験に向け、加速器との相互作用に適したプラズマ装置の製作や、実験上欠かせない各種安全装置の開発を行っており、複数の学会でその成果を発表しています。特に、大きな国際学会での招待講演や特別講演の機会を頂いており、本プロジェクトに対して国際的に高い関心が寄せられています。
量子多体問題と量子情報科学の基礎研究
〈令和5年度日本大学理工学部学術賞〉
量子理工学専攻 准教授 大谷 聡

本研究ではエフィモフ効果と量子ウォークの理論研究を行いました。以下ではこれら二つの研究に関して、ごく簡単に説明したいと思います。
まず、エフィモフ効果とは図1のような等比数列をなす無限個の多体束縛状態が出現する現象のことです。これは2体短距離相互作用のもとで相互作用する量子多体系で連続的スケール不変性が離散的スケール不変性に破れると普遍的に現れるのですが、1次元や2次元系では発現しないと長らく信じられていました。私はクラスター分解性を破る2体接触相互作用の下では1次元でもエフィモフ効果が現れ得ることを証明し、多体束縛エネルギーおよび散乱行列の厳密解を構成しました。
次に量子ウォークですが、これはランダムウォークの量子版のことで(図2参照)、量子情報科学の分野で現在盛んに研究されています。量子ウォークでは粒子を見いだす確率振幅と呼ばれる量が本質的に重要なのですが、これまでこの量は主に数値的に求められていただけで、その一般的構造はほとんどわかっていませんでした。私は粒子の配位空間が軌道空間とみなせる場合に対して、確率振幅の一般的表式を初めて導出しました。
超小型衛星による電離圏観測と地上観測網を融合した早期地震警戒システムの研究
航空宇宙工学専攻 准教授 山﨑 政彦
統計的有意性が報告されている地震先行電離圏現象の物理機構解明のために、1)電離圏の観測を行う超小型衛星PRELUDE の開発、2)ドローンによる機動的電場観測技術の構築、3)比較的短い期間(数日から数時間)の予測が可能となった場合の予防体制や社会実装上の要求条件の検討を行いました。
PRELUDE はVLF 帯電磁波の観測に特化し、電場センサおよびラングミュアプローブの機能を持ったハイブリッド型超小型センサユニットを搭載し、先行研究の衛星では部分的にしか得られていないハイサンプリングVLF 帯電波波形データを解析対象地震全てに対し取得することができます。雷放電起源VLF 帯電波を信号源とした解析により、地震に先行して変動する下部電離圏(D領域)の調査を行い、その現象の発生機構の解明を目指します。
本研究で設計・開発したPRELUDE 衛星は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の革新的衛星技術実証プログラム4号機の実証テーマに選定されました。現在、2025年度の打ち上げを目指してエンジニアリングモデルの振動試験、熱真空槽試験、フライトモデル(打ち上げ機)の設計・開発を進めています。

NUBICにおける特許件数
技術に関する研究成果などを民間事業者へ移転する推進機関として設置されている日本大学産官学連携知財センター(略称:NUBIC ニュービック)に係属する産業財産権などで、理工学部は国内外の特許出願件数、特許公開件数とも日本大学のなかで多数を占め、活発な研究活動の実績を示しています。


学外からの研究補助金
各種補助金は、大学における教育・研究活動をより活性化すると同時に、社会からの評価指標ともなるものです。理工学部では、科学研究費助成事業(科研費)をはじめとした外部資金の獲得に積極的に取り組み、申請を奨励する制度も設けています。






受賞紹介
素晴らしい研究環境で得られた大学院院生の研究成果は、さまざまな学科や団体・企業から高い評価を受けています。
※学生の学年は受賞当時のものです。




日本大学理工学部学術講演会
1950年より実施し、67回を迎えた2023年度の学術講演会では16部会において約460件の発表がありました。特別セッションでは、理工学部学術賞記念講演(大谷聡助教)、理工学研究所プロジェクト研究助成金成果報告(山﨑政彦准教授、住友洋介准教授)、そして理工学研究所先導研究推進助成金成果報告(奥山圭一教授)の講演がありました。また日本大学特別研究に関連した、日本大学災害研究ソサイエティ(NUDS)の成果報告を兼ねたセッションも実施され、学外からも多数の参加者を集めました。
毎年、優秀な講演発表者に対しては「優秀発表賞」として理工学部長より表彰状が贈られています。学生はこの学術講演会をきっかけに、さらに研究を進めて学会や国際会議等での発表につなげています。


海外からの研究訪問
理工学部は、ダルムシュタット工科大学、西安建築科技術大学を始めとする5大学と学術交流覚書を結び、活発な研究者間の交流が実現しています。海外からは、覚書提携校以外からも多様な研究者の訪問があり、訪問者は滞在期間中に海外招へい研究員や客員研究員などの様々な立場で、共同研究、研究発表、講演会、大学院特別講義などを実施しています。これらの研究者との交流は、大学院理工学研究科の学生達に世界の科学・技術の進展を肌で感じさせる役割を果たしています。