担当講師:中原 明生
粉と水を混ぜただけのペーストはなんと揺れや流れなどの自分自身の動きの体験を記憶します。
ペーストが何を記憶したかペーストを眺めているだけではわかりませんが,そのペーストを乾燥させると,乾燥によってひび割れた際の亀裂パターンの模様を見ることによりペーストが何を記憶していたのか一目瞭然でわかるようになりました。
具体的に説明してみましょう。
ペーストが地震のような揺れを体験した場合は,乾燥させた時に生じる亀裂の進行方向は過去に体験した揺れの方向に垂直となります。しかし,もしもペースト内の水分含有量が少し多めでペーストが流れを体験した場合は,乾燥させた時に生じる亀裂の進行方向は流れた方向に平行になるのです。その結果,亀裂の模様を見ると,ペーストが揺れたのか,流れたのか,またその方向はどうだったか,すべてわかるのです。
例えば,下の亀裂パターンの写真は,直径50cmの円形容器に入ったペーストがなんらかの動きを体験した時の記憶が乾燥亀裂パターンとして視覚化されたものです。
それぞれのペーストがどういう動きを体験したのか,想像してみてください。
この面白い現象は注目を浴び,2014年には日本物理学会主催の一般向けの科学セミナーでの講演を依頼されるとともに,日本物理学会誌2015年3月号では解説記事として紹介されることとなりました。
http://www.jps.or.jp/public/seminar/scisemi2014.html
http://www.jps.or.jp/books/gakkaishi/2015/03/703.html
この現象からは,サイエンスとしては無機質であるペーストがなぜ自分の体験を記憶するのかという面白さを感じるとともに,工学的には材料の割れやすい方向を調整して自由自在に亀裂の形状をコントロールしようという破壊の制御に対する幅広い応用が期待されます。
