日本大学理工学部 日本大学大学院理工学研究科
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2019年03月09日

メディアレポート

リュウグウとの距離を測るレーザー高度計「ライダーLIDAR」のサイエンス側のタッチダウン運用をJAXAの運用室で行っていた、航空宇宙工学科 宇宙科学研究室の阿部新助准教授の「はやぶさ2」リュウグウ タッチダウン成功の現場レポートが届きました!

リュウグウとの距離を測るレーザー高度計「ライダーLIDAR」のサイエンス側のタッチダウン運用をJAXAの運用室で行っていた、航空宇宙工学科 宇宙科学研究室の阿部新助准教授の「はやぶさ2」リュウグウ タッチダウン成功の現場レポートが届きました!

<航空宇宙工学科 阿部新助准教授の心揺さぶる現場レポートです>

2019年(平成31年:以下全て日本時間(およその時間)で示す。これらの時刻は地上局で電波を受信した時刻であるが、地球と小惑星リュウグウの距離は約3億4千万kmあり、光(電波)の速さで片道19分の距離であるため、実際に探査機・小惑星でイベントが起きた時刻は、19分前になる。)レーザー高度計LIDAR(LIght Detection And Ranging)のサイエンス側のタッチダウン運用のため、前夜から運用室に篭った。予定より約5時間遅れの降下開始となったが、当初予定の秒速40cmの降下速度から秒速90cmまで増速したことで、高度5000m付近で計画軌道に追いつき降下速度を秒速10cmに減速。また、カリフォルニア・モハベ砂漠にあるNASA/JPLのゴールドストーン深宇宙通信アンテナ局では、極めて珍しい(10年振りの?)雪が降り通信速度が落ちていたが、通常の直径34mアンテナに加え、直径70mアンテナも使えたため地球からのコマンドが探査機に届いた。不幸中の幸いであった。

午前6時40分過ぎに高度300mに到達し、LIDARが遠距離モードから完全に近距離モードに切り替わり一安心(ここで近距離モードに切り替わり測距に十分なシグナルが得られないとアボート=降下中止になる)。

7時15分頃には直下点高度100mに到達し、順調に降下を続ける。

7時26分に高度45mに到達し、姿勢変更により高速データ通信用の指向性の高いハイゲインアンテナ(HGA)が地球方向から外れるため、指向性の広いローゲインアンテナ(LGA)に切り替わった。もはや情報が乗っていない、か細いビーコン電波でのみしか地球と繋がっていない。管制室の巨大スクリーンに映し出されるビーコン電波のドップラー変位とJAXA臼田アンテナからのシグナル変動が、まるで心電図のように、探査機「はやぶさ2」が3.4億km彼方で生きている証拠を伝えてくれた。小惑星の自転により徐々にターゲットマーカーが探査機の広角航法カメラONC-W1の視野に入って来るはず。「はやぶさ」初号機で実績のある小天体表面の特徴点を計測し自律6自由度制御で航法誘導を行うGCP-NAV(Ground Control Point NAVigation)で、表面に投下されている18万人の名前が刻まれたターゲットマーカーにフラッシュライトを浴びせながら小惑星表面へと導かれて行く。もやは地球から光の速さで指令を送っても、タッチダウン・イベントが進む小惑星時間には追いつけない。レーザー高度計もLIDARから4本ビームの近距離高度計LRFに切り替わった。

7時38分、高度8.5mでホバリング体制に入った。ここから獲物を狙うハヤブサのごとく、探査機自身がカルマンフィルターを駆使してターゲット地点上空をホバリングする。管制室は静まり返り、誰もが巨大スクリーンに映し出される時間と共に変化する視線方向速度が分かるドップラー変位グラフの上下変化に注視する。

7時46分、ドップラーが上(プラス側; 地球から離れる側)に振れ始める。探査機が地球から離れる方向、「はやぶさ2」がリュウグウ表面の着地地点を自ら捉えて、躊躇なく降下を開始したことを示した。

「よし行った!」誰かが叫ぶ。探査機「はやぶさ2」は、高度8.5mからの最終降下を開始。一部歓声が上がったが、まだタッチダウンではない。そして、ドップラー変位が止まった。リュウグウ表面にタッチしたのか!? 管制室の誰もが息を飲む瞬間だった。次の瞬間、ドップラー変位が下(マイナス側; 地球に近づく側)に大きく振れた。上昇に転じたのだ。

7時48分(小惑星時刻 7時29分10秒)。小惑星リュウグウにタッチダウンした!!
管制室内が大きな拍手と歓喜に包まれた。2005年11月26日午前7時7分、初号機「はやぶさ」が小惑星イトカワにタッチダウンしてから13年3ケ月振りに人類は再び、それも同じ日本の宇宙探査船シリーズによって小惑星の表面に降り立った瞬間だった。2つの歴史的瞬間に現場で立ち会えた小職は、なんと幸運なんだろう。
タッチダウンの20分後には、探査機のハイゲインアンテナが地球を向き、タッチダウン直後のデータが送られてきた。サンプラーホーンに取り付けられた温度センサーは、タッチダウン時刻から熱伝導の遅れを表す温度上昇を示しており、弾丸を発射した際の爆薬点火の確実な証拠となった。タッチダウン前後に撮影された画像が届くと、驚愕の様子が写り込んでいた。「はやぶさ」初号機も撮影したが、タッチダウン後に姿勢を崩して電力を失い、メモリがリセットされて地球に送信できなかった待ち焦がれた画像の数々。「はやぶさ2」が初号機のリベンジを果たしてくれた最高のタッチダウン記念日となった。このタッチダウンの後に、研究室の大学院生が「はやぶさ2」サイエンスチームメンバーに正式承認された。次回のメインイベント(SCIインパクターによる、クレーター形成実験)や、2回目タッチダウンには是非参加してもらい、リュウグウからもたらされるデータ解析を進めて、新たな知見を得て行ければと思う。